『わたしの娘を100ウォンで売ります』

わたしの娘を100ウォンで売りますこれまで10人以上の知り合いに、「ぜひ読んで」と渡してきた本があります。

金日成のお抱え詩人だった脱北詩人チャン・ジンソン氏が、豆満江を渡るとき、300万人の餓死者の存在を世に伝える一念で抱きかかえて持ち出した詩集です。

開くたびに、涙が止まらなくなります。

 

『わたしの娘を100ウォンで売ります』

その女は 憔悴していた

――わたしの 娘100ウォンで 売ります

書かれた 紙を 首に かけ

おさな児を わきに立てさせて

市場に 立っていた その女は

 

女は 唖者であった

売られる 娘と

売る 女性を ながめては

人々の 投げかける 呪詛にも

地べたを みつめるばかりの その女は

女は 涙も 枯れていた

母が 死病に かかって

わめき 泣き叫ぶ 娘が

母のチマに すがっても

女は ただ くちびるを

震わせるばかり

 

女は 感謝することも 知らなかった

あんたの 娘ではなく

母性愛を 買うと

ひとりの 軍人が 100ウォンを 手渡すと

その金を もって どこへやら

駆け出した その女は

 

女は 母であった

娘を売った 100ウォンで

小麦粉パンを かかえ

慌て 駆け戻り

別離れ行く 娘の

口へ 押し込み

――赦しておくれ!

慟哭した その女は

 

 

 

※1999年に卵一個が200ウォン以上とあります。

金日成主席生誕100年の「衛星」を撃ちあげに対し、

「農業など人民経済に必要な気象予報研究で大きな一歩を踏み出す歴史的出来事だ」という発表ほど、人間をバカにしたものはありません。