7/5 サバクトビバッタの大襲来!――「世界の胃袋・中国」に食糧危機はくるのか?【前編】

HRPニュースファイル

サバクトビバッタの大襲来!――「世界の胃袋・中国」に食糧危機はくるのか?【前編】
http://hrp-newsfile.jp/2020/3922/

◆サバクトビバッタによる食糧危機は?
本年に入ってから東アフリカ・アラビア半島周辺で発生したサバクトビバッタは、6月にインドのパキスタンに国境を接したラジャスタン州やインド北部の街アラハバードまで襲来しています。

アラハバードからネパールまではわずか200kmで、今まで移動してきた距離を考えれば、中国に到達するのも時間の問題です。

サバクトビバッタの大量発生について、国連食糧農業機関(FAO)は、「東アフリカで2,500万人以上、イエメンでは1,700万人が食糧不足に陥ると予測(6/19産経ネット版)」しています。

「世界的な食糧危機が起こるのか?」という点については否定的な見方があるのは確かです。

というのも世界の穀物生産は8年連続の豊作となっており、穀物の主要生産地である南北アメリカ、ロシア・ウクライナ等でバッタの被害は全く出ていないからです。

◆極めて不安定な「穀物」の特性
しかしながら「食糧(穀物)」を国際市場における「商品」として捉えると、いかに不安定な資源であるかがわかります。

大豆・小麦・トウモロコシ等の穀物は「基礎食料」であり、国内での消費・備蓄が最優先されるという特性があります。

その上で余った穀物が輸出されるため、どうしても数量は限られてしまうのです。

こうした穀物国際市場の特徴は「薄いマーケット(thin market)」と表現され、国際市場に出る穀物は、生産量のたった「約7分の1」にしか過ぎません。

また、投機マネーの対象となり、穀物の主要輸出国と輸入国が共にかなり限定されるので、今回のコロナ禍での禁輸措置などの要因が大きく作用し、価格が急に「乱高下する」という特性があります。

◆穀物の不作から起こった「アラブの春」
近年でも「穀物」の不安定性が、世界的な大変動の要因の一つとなりました。

それが2011年に北アフリカから起こった民主化運動「アラブの春」です。

2010年に発生したエルニーニョの影響で干ばつが発生し、小麦輸出国世界1位のロシア、世界5位のウクライナが「輸出しない」と急遽禁輸を発表したのです。

この2か国のみで世界に出回る約3割の小麦を輸出していた上に、世界4位のカナダも豪雨で輸出が減少したため、世界2位の小麦輸出国であるアメリカに買いが殺到しました。

小麦を十分に確保できなかった北アフリカ・中東諸国で主食となるパンの価格が急騰し、食べられない庶民の不満が爆発したのが「アラブの春」の直接の引き金となったのではないかという説があります。

その結果、革命によってチュニジアやエジプト、リビア、イエメンといった国々の政権が転覆したのです。

◆食糧危機で革命が起きてきた中国
中国史を見ても、多くの王朝が食糧不足による飢饉がおこり、民衆の反乱によって滅亡に至りました。

チンギス・ハーンが興した元帝国も、その後に続いた明も食糧危機が革命の直接的な原因の一つとなりました。

現代の中国は世界最大の人口14億人を食べさせなければなりません。

その「世界の胃袋」と言える中国では、2019年時点で6億トン強の食糧生産を誇り、ここ21世紀に入って20年間で約2億トンもの増産に成功しています。

トウモロコシ、小麦といった2品目においてはアメリカに次ぐ世界第2位の生産量を誇ります。

◆中国の穀物消費量と増え続ける国民食「豚肉」
しかしながら、ここ10年、中国は輸入に頼らざるを得ない状況になっています。その要因は中国の国民食「豚肉」の存在です。

トウモロコシ、小麦、大豆といった穀物は、豚の餌として必要不可欠です。

特に、自給体制が整わない大豆については、米国、ブラジル、アルゼンチンといった輸出国からおよそ1億トン弱も輸入している状況です。

実に中国は世界の穀物在庫の過半を占めており、世界の小麦の51.6%、トウモロコシの67%、コメの64.7%を中国が「備蓄」しています。

国連食糧農業機関(FAO)が適正と考える在庫率が約2か月分の消費量にあたる17~18%と考えるとその3倍以上で、驚くべき備蓄率を誇っています。

以上、中国の穀物事情を見てきましたが、後編では、中国で起こるかもしれない食糧危機と日本への影響とその対策を述べて参ります。

(つづく)